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2008年7月11日 (金)

マーラー交響曲第5番はなぜこんなに人気があるのか?

「作曲家は交響曲第5番を作るときは、みんなベートーヴェンを意識して力作になるからどれも名曲になるんだよ」

そう言っていたのは、私の親父です。
大正生まれだった親父たちの世代は、クラシック音楽といえば、それはほぼベートーヴェンを中心とした音楽のことだったようです。

確かにベートーヴェン以降の交響曲第5番は名曲ぞろい。
チャイコフスキー、ブルックナー、マーラー、ヴォーン・ウイリアムス、プロコフィエフ、ショスタコーヴィチ、アーノルド・・・第5番がその人のベストの交響曲かどうかは多少評価が別れるかもしれないけれど、どの曲も大変聴きごたえのある相当な力作であることには間違いありません。

残念なことにブラームスとシューマンは第4番で終わりになってしまいました。
特にベートーヴェンを意識していたブラームスが、もし第5番を完成していたら・・・なんて想像するだけでも楽しいですね。

で、今日はその中でも、私が特に大好きなマーラーの交響曲第5番。
とにかく、聴きどころ満載の交響曲なのです。

ちょっと余談ですが、1980年代あたりからの海外の一流オーケストラの来日公演で、取り上げられた曲としては、最もプログラムにたくさん載った曲ではないでしょうか?
これは正確な統計ではありません。あくまで勘。ただ多少でも来日オケの公演のプログラムに興味を持ってる人なら「ふむふむ、そうかもしれないねえ・・・」とうなづいていただけるのでは?(どなたか正確なデータがあれば教えていただきたいものです)

マーラーの音楽の魅力は・・・
耽美的なメロディ、狂おしいまでの感情のうねり、むせ返るようなロマンチシズム・・・
そして全編対位法の連続というか、絶えず複数の旋律がいろいろな楽器で交錯していて、それが一筋縄ではない人間の内面を描いているように音楽が進行していくところ・・・
オーケストレーションが巧みで、特に管楽器のソロが登場したときの面白さ・・・
思いつくままに挙げてみても、こんなに魅力が満載です。

「大地の歌」と未完の第10番も含めて、どのマーラーの交響曲を聴いてみても、そういった魅力を味わうことはできますが、これらの要素をちょうど程よく効果的にわかりやすく聴くことができるのがこの第5交響曲なのではないか、だから「よっしゃ、うちのオケのエエとこ聴かせたろじゃないの」的な来日公演で取り上げられることも多いのではないかと。
演奏時間も65分~70分ちょっとと、マーラーの交響曲の中では中程度の長さです。

まず第一楽章の冒頭、いきなりトランペットソロで曲は始まります。
そんな交響曲がそれまであったでしょうか?しかもファンファーレですよ。
いやあ、奏者は緊張の極でしょう。ライブではとんでもないミスが続出するのを何度か目撃しています。
こののっけから登場する山場が見事に吹ききることができれば、その日の演奏はもう名演奏になってしまうような気がしてなりません。逆にウマくいかないと、先が思いやられるなあ・・・と心配ばかりが先行してしまいます。
音楽でも「始まり」というのは大事なのです。
ちなみに冒頭のファンファーレのリズムは、タタタターン・・・まさしくべートーヴェンの運命の動機と同じですね。(メンデルスゾーンの真夏の夜の夢の「結婚行進曲」の冒頭にもよく似ています)
トランペットソロに続くフォルテッシモのトゥッティ!その後から暗く陰鬱に始まる葬送行進曲・・・こういった落差の非常に激しい展開が全編に続いて登場するのも、この曲の特徴であり、演奏効果を高める大きな要素にもなっています。

そして第一楽章と対になっている第二楽章
音楽はさらに激しく荒れ狂い地を這いのたうち回り、胸を締め付けられるような慟哭、そして大爆発・・・
いやあ~私たち素人の音楽好きが、指揮者になったつもりで棒を振ったら、これほど激しくいろんなことできる音楽はないんじゃないかなあ~なんて思います。
「いやあ~大げさ過ぎ。」そんな声も聞こえてきますが、マーラー好きは、こういうところが大好きなんですね。

第三楽章は長大なワルツ。
ワルツといっても優雅なものではなく、あちこちが肥大した建造物のようなワルツ。
ホルン軍が大活躍します。ホルンソロは第一楽章のトランペットソロ以上に聴きどころと言えるでしょう。
細かいパッセージなどはないものの、まずは堂々とした「音」が必要です。朗々と響く男性的な音色、音量を落としても微動だにしない安定感。ホルン奏者にとって聴かせどころです。

第四楽章アダージェットは最も有名な楽章です。
青白い顔のマーラーが、「胸が痛くなるほどに思いつめて書き上げた愛の音楽」のように私は感じます。とても美しい音楽です。
よくヴィスコンティの映画「ベニスに死す」で使われて・・・なんていう解説がされますけど、そんな宣伝文句を借りなくても、この壮絶なまでに美しい楽章は、充分に人気を得ているはずです。
弦楽合奏だけで演奏され、他の楽章との対比が鮮明でとても効果的です。
妻アルマと結婚したばかりのころに作った曲だということが、本などで紹介されています。ふむふむ、なるほどなあ~私も大いに影響していると感じます。

そしてそして、最終の第五楽章
この曲がこれほどまでの人気になっている最大の理由は、実はこの終楽章にあるのでは!と思っています。
全体の構成から言うとこの第5交響曲は、ベートーヴェンと同じ運命の動機で始まり、最後は勝利を得る、というまったく同じパターンなんですね。
終楽章では、初めに示された音形をフーガの技法を用いながら躍動感あふれる展開を見せ、クライマックスへ導いていきます。
途中各楽章で登場した主題が、随所でいろいろと形を変えて登場するところがワクワクするのです。
ですが圧巻は何と言っても終結部のコーダ。金管の壮大なコラールで頂上に登り詰めたその直後に、一気にこれまでの登場テーマがなだれ込む!聴覚神経を起点として脳細胞がスパークするような感覚です!
そしてトドメが、ドーシラソファミレド!と、脳天逆落としをくらわせるような終わり方。
喜びに満ちた終結部なのに、ただ単純に終わらせないのがマーラー。
ここは何度聴いても、どんな演奏を聴いても興奮する終結部です。

所有CDを数えてみたら、ちょうど30種類ありました。
好きな曲だと、新しい演奏のCDを見つけるとついつい「わ、どんな演奏になってるんだろう」と買ってしまうんです。

中学生時代に初めてこの曲に出会ったのは、ショルティがシカゴ交響楽団の音楽監督に就任時に録音したLPでした。ヴィルティオーソオーケストラの力を全開にして逞しく築き上げた力感に溢れた名演奏です。今聴いてもこれはある意味すごい演奏です。
ほぼ同時期にLPで親しんでいたのは、バーンスタインがニューヨークフィルを振った63年録音盤。非常に熱っぽくマーラー節を聴かせます。ちなみに私にとって「マーラーらしさ」のイメージの大半は、若い頃一番たくさん聴いたバーンスタインの演奏で作られています。
これらの録音は、どちらもこの曲を語る上で欠かせないモものですが、最近になってCDで聴き直しみると、ショルティはちょっと力づくで単純かな?バーンスタインのはあまりにもアンサンブルが雑じゃないの?と感じてしまうところもありますけど・・・。

クーベリックやテンシュテットのライブ盤は、共感度と燃焼度の高さではピカ一。
冒頭トランペットの見事さでは、メータの振ったニューヨークフィル(フィリップ・スミス)か前述のショルテ・シカゴ響(アドルフ・ハーゼス)かな。
ガッティ指揮ロイヤルフィルのやる気に溢れた演奏も捨てがたい。
カラヤン・ベルリンフィルの有名なアダージェットは、確かに聴きものです。
ラトルのベルリンフィル音楽監督就任公演ライブもなかなか。特に首席ホルンのシュテファン・ドールの第3楽章のソロは鳴りっぷりの良さに拍手!頼りになる男だ。
最近の録音では、ジンマン指揮チューリヒトーンハレ管が進行中の全集録音の中では、この第5番が最も熱く金管軍も含めオケが立派です。

しかし現在のところ、私がこの曲で最も気に入ってるのは、インバル指揮フランクフルト放送響盤。
インバルはすべての音に目を行き届かせ、繊細でありながら巨大な建築物のようなマーラーを築き上げています。
同時進行する複数の旋律に耳を澄ませてみると、それぞれがしっかりとニュアンスを湛えて歌っている。ひとつひとつの要素が絡み合い、そして統合し、さらに離反していく有様を一番見事に描いている演奏、それがインバルの演奏ではないでしょうか。
86年のフランクフルト放送響初来日時の初日、サントリーホールで聴いた時も同じような印象を受けましたが、さらにライブならではのものすごい熱気と気迫がありました。
デンオン盤は録音レベルが低いので、通常より2~3割増しの音量で再生すると、そういったインバル盤の良さが味わえます。と同時に、ほぼワンポイントで捉えた録音の透明感とダイナミックレンジの大きさに驚かされるでしょう。

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